オーストリア、ブルゲンラント州のイルミッツ。この地名を聞くだけで、ワイン愛好家の頭には濃厚な黄金色の景色が浮かぶはずです。
今回抜栓したのは、この地の至宝、ヘルムート・ラングによる「Trockenbeerenauslese (TBA) 2021 Ried Sandriegel」。品種は、この地で伝統的に愛されるSämling 88(ゼムリング 88)です。
オーストリア旅行のお土産に買ってきました。
甘口ワインの魔術師が描く「サンドリーゲル」のテロワール
造り手のヘルムート・ラングは、かつて「甘口ワインの魔術師」と称賛された名手。彼が拠点を置くイルミッツは、巨大なノイジィードル湖から発生する秋の霧がブドウを貴腐化させ、世界最高峰の極甘口ワインを生み出す聖地として知られます。
今回の1本は、単一畑「Ried Sandriegel(リート・サンドリーゲル)」のブドウを100%使用。オーストリアのワイン法で守られたこの「Ried」の表記は、公的に登録された特定の優れた区画であることを証明する、最高水準の原産地表示です。
テイスティング・ノート:エキゾチックな香りの迷宮
グラスに注ぐと、粘性の高い、輝くようなゴールド。2021年というヴィンテージらしい、若々しくも力強い輝きがあります。
- 香り:グラスを近づけた瞬間、Sämling 88(別名ショイレーベ)特有の爆発的なアロマが広がります。カシスやグレープフルーツの爽やかさに、貴腐由来のマンゴーやパッションフルーツ、そして蜂蜜の濃厚なニュアンスが重なります。
- 味わい:口に含むと、驚くほどの凝縮感。アルコール度数は10%と控えめながら、エキス分が非常に濃密です。舌の上をゆっくりと転がる甘みは、決してベタつくことはありません。
- 余韻:特筆すべきは、その「酸」の美しさです。極限まで高まった糖度を、この研ぎ澄まされた酸が見事に支えています。最後の一滴が消えた後も、ドライアプリコットのような高貴な余韻が数分間にわたって続きます。
究極の贅沢、その一杯
このワインは、もはや飲み物というよりは「液体になった宝石」です。
2021年のフレッシュな果実味を今楽しむのも素晴らしいですが、この構成の良さなら、今後10年、20年とセラーで寝かせ、さらに複雑な琥珀色の世界へと進化するのを待つのも一興でしょう。
「甘口ワインは食後に」という常識を超えて、ただこの一杯と向き合うためだけの時間を持ちたくなる、圧倒的な説得力を持つ1本でした。

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