皆さん、こんにちは! 日々ワインの奥深さに魅了されているソムリエールのtakau99です。
ワイン愛好家の皆さんなら、きっと一度は耳にしたことがあるでしょう。フランス・ボルドー地方が誇る、まさに「デザートワインの極み」と称されるアペラシオン、それが**ソーテルヌ(Sauternes AOP)**です。
今回は、甘口ワインの概念を覆すような複雑さと高貴さを併せ持つソーテルヌの魅力を深掘りし、その独特の味わいがいかにして生まれるのか、そしてワイン通が唸る名シャトーの数々をご紹介します。高価なイメージがあるソーテルヌですが、その価格に見合う唯一無二の体験がそこにはあります。
ソーテルヌとは?奇跡が生み出す「液体の黄金」
ソーテルヌは、フランス・ボルドー地方の南部、ガロンヌ川の左岸、そしてその支流であるシロン川の両岸に位置する限られた地域で生産される貴腐ワインです。
このワインの最大の秘密は、ブドウに付着する**「貴腐菌(ボトリティス・シネレア)」**にあります。秋の早朝に発生するシロン川の霧がブドウ畑を覆い、日中にはガロンヌ川からの温かい太陽が霧を晴らす、という独特の気候条件が貴腐菌の発生と生育に不可欠なのです。
貴腐菌がブドウの果皮に穴を開け、そこから水分が蒸発することで、ブドウの糖分と酸が凝縮されます。さらに、貴腐菌がブドウの成分に作用することで、ハチミツ、アプリコット、マーマレード、ドライフルーツ、そして複雑なスパイスやナッツのような、他に類を見ない独特の風味と甘さが生まれるのです。
主要品種はセミヨン種で、これにソーヴィニヨン・ブラン種やミュスカデル種がブレンドされることが一般的です。
まさに「奇跡のワイン」「液体の黄金」と称される所以がここにあります。
ソーテルヌを名乗れる5つのコミューン
ソーテルヌAOPを名乗ることができるのは、以下の5つのコミューン(村)に限られています。
バルサック (Barsac)
ボンム (Bommes)
ファルグ (Fargues)
プレニャック (Preignac)
ソーテルヌ (Sauternes)
これらのコミューンはいずれも地理的に近く、貴腐ワインを生み出す最適な微気候を備えています。
【豆知識】バルサックの選択:AOPソーテルヌ vs AOPバルサック
この中でもバルサックは特殊で、AOPソーテルヌを名乗ることもできますし、独自のAOPバルサックを名乗ることも可能です。
「わざわざAOPバルサックを名乗る意味があるの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。実際、マーケティング的にはAOPソーテルヌの方が知名度が高く有利に見えます。しかし、AOPバルサックを名乗るシャトーは、一般的にソーテルヌよりも酸味が豊かで、より繊細なスタイルの貴腐ワインを造る傾向があります。これは、バルサックの土壌がより石灰質であることに起因すると言われています。
自身のスタイルに誇りを持ち、それを表現するためにあえてAOPバルサックを選ぶシャトーが存在する、というわけです。日本でも入手可能なAOPバルサックのワインは、ソーテルヌとはまた異なる貴腐ワインの表情を見せてくれるでしょう。
ボルドー ワイン格付け1855年:ソーテルヌの頂点
1855年のボルドー ワイン格付けは、メドックの赤ワインが有名ですが、ソーテルヌの甘口ワインにも適用され、その後の評価の指針となっています。
特別第1級(Supérieur Premier Cru)
ソーテルヌの頂点に君臨する唯一のシャトーです。
シャトー・ディケム(Château d'Yquem): 約100ヘクタール 言わずと知れたソーテルヌの帝王。その複雑なアロマと、驚くべき熟成能力は、まさに別格。一度は味わいたい、ワイン愛好家垂涎の的です。
第1級(Premier Cru)
こちらもソーテルヌを代表する名シャトーが名を連ねます。
シャトー・クリマン(Château Climens): 約30ヘクタール
シャトー・クテ(Château Coutet): 約38.5ヘクタール
シャトー・ギロー(Château Guiraud): 約100ヘクタール
シャトー・クロ・オー・ペイラゲ(Château Clos Haut-Peyraguey): 約12ヘクタール
シャトー・ラフォリ・ペラゲ(Château Lafaurie-Peyraguey): 約41ヘクタール
シャトー・ラ・トゥール・ブランシュ(Château La Tour Blanche): 約38ヘクタール
シャトー・ラボー・プロミス(Château Rabaud-Promis): 約33ヘクタール
シャトー・ドゥ・レイヌ・ヴィニョー(Château de Rayne Vigneau): 約80ヘクタール
シャトー・リューセック(Château Rieussec): 約90ヘクタール
シャトー・シガラス・ラボー(Château Sigalas Rabaud): 約14ヘクタール
シャトー・スドゥイロー(Château Suduiraut): 約92ヘクタール
これらのシャトーも、それぞれに個性豊かな貴腐ワインを生産し、素晴らしい熟成能力を誇ります。
第2級(Deuxième Cru)
こちらも高品質な貴腐ワインを生産する実力派揃いです。
シャトー・ブルステ(Château Broustet):約16ヘクタール
シャトー・カイユ(Château Caillou):約18ヘクタール
シャトー・ドワジー・デーン(Château Doisy Daëne)
シャトー・ドワジー・デュブロカ(Château Doisy-Dubroca)
シャトー・ドワジー・ヴェドリンヌ(Château Doisy-Védrines)
シャトー・ミラ(Château de Malle):約22ヘクタール
シャトー・ナイラック(Château Nairac)
シャトー・スオウ(Château Suau)
シャトー・ダルケ(Château d'Arche):約40ヘクタール
シャトー・フィルオ(Château Filhot):約62ヘクタール
シャトー・ラモット(Château Lamothe):約7.5ヘクタール
シャトー・ラモット・ギニャール(Château Lamothe Guignard):約29ヘクタール
シャトー・マル(Château de Malle):約27ヘクタール (※上記シャトー・ミラと同名異表記の可能性あり、または同一シャトーの別表記)
シャトー・ロマー(Château Romer):約6.5ヘクタール
シャトー・ロメール・デュ・アヨ(Château Romer du Hayot):約15ヘクタール
※上記のリストは、一部ヘクタール表記が漏れていたり、同一シャトーの別表記が含まれている可能性がございますが、参考として記載しています。
格付けと価格、そして「味の差」をワイン通が解説
概ね、ワインの価格はこの格付けに比例しています。ディケムは群を抜いて高価であり、第1級、第2級と続くにつれて価格帯は下がります。
しかし、ワイン通として強調したいのは、**「味は価格ほどの絶対的な差はない」**ということです。
もちろん、ディケムのような「特別第1級」のワインは、圧倒的な凝縮感、複雑性、そして熟成ポテンシャルを持っています。しかし、一般的なワイン愛好家が、無格付けの優れたソーテルヌと第1級のソーテルヌをブラインドでテイスティングした場合、味やアロマの違いは確かに分かりますが、それが「優劣」というよりは「個性」の違いとして感じられることが多いのです。
例えば、あるシャトーはトロピカルフルーツの香りが際立ち、別のシャトーは柑橘系のニュアンスやミネラル感が強い、といった具合です。熟成が進むにつれて、より複雑なブーケが開いてくるのもソーテルヌの魅力ですが、若い段階ではそれぞれのシャトーが持つテロワールや醸造哲学の違いが色濃く現れます。
高価なシャトー・ディケムは確かに素晴らしいですが、第1級や第2級、あるいは格付け外でも真摯に貴腐ワインを造るシャトーの中には、価格以上の満足感を与えてくれる掘り出し物が必ず存在します。
まとめ:ソーテルヌは、探求の喜びをくれるワイン
ソーテルヌは高価なワインかもしれませんが、その特別な製造過程と複雑な味わいは、一度は体験する価値のある「液体の宝石」です。
格付けを参考にしつつも、ぜひ様々なシャトーのソーテルヌを飲み比べてみてください。きっと、あなた自身の舌で、それぞれのシャトーが持つ「個性」と、貴腐ワインの奥深い世界を発見できるはずです。
食後のデザートとして、あるいはフォアグラやブルーチーズとのマリアージュとして。ソーテルヌがもたらす至福のひとときを、ぜひ体験してみてください。
貴腐ワインの魅力を語り合う機会があれば、ぜひお声がけくださいね!
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